多くのベテランが活躍するクラシック音楽界ではあるが、一方でピアノやヴァイオリンはかなり若い世代で人気を集める演奏家が生まれることが多く、神童と呼ばれ、もてはやされて話題となり、十代のうちから世界を舞台に活動を繰り広げる演奏家も少なくない。
中川優芽花は、2001年デュッセルドルフに生まれ、まさに21世紀生まれの新世代といえる若いピアニストだ。ドイツで育ち、日本とは違った自立を促す教育を受けてきたことがよい影響として残り、若い世代の一人ではあるが、しかし、同世代の他の演奏家とは一味も二味も違う、まさに一線を画した独自の世界を切り拓いており、その至高の演奏で聴衆を魅了してやまない。
2018年イェネ・タカーチ国際コンクール、2019年ロベルト・シューマン国際コンクール、さらに2021年にクララ・ハスキル国際ピアノコンクールなど名だたるコンクールで優勝を重ね、若手の中でも現在最も活動が注目され、未来に向かって大きく育っていくであろう逸材として将来を嘱望されている。
そんな大きな注目を一身に集める彼女が、待望のデビュー・アルバムをリリースした。これは2024年9月の浜離宮朝日ホールとザ・シンフォニーホールにおける、いずれもライブ録音である。シューマンの「子供の情景」に始まり、ラフマニノフの前奏曲4曲と「パガニーニの主題による狂詩曲」、最後に「ヴォカリーズ」他と、彼女の「いま」を聴くことのできる魅力的な内容となっており、当の本人も「大好きなシューマンとラフマニノフの録音をデビュー・アルバムにすることができて嬉しい」と語っている。
その名前を冠したコンクールでの優勝経験もあり、本人が大好きで、それだけにこだわるシューマン。しかし、気負うことはなく、「子供の情景」の第1曲がひそやかに始められるあたりが彼女の彼女たるゆえんであろうか。絶妙な間合いと息遣いが、よい意味での緊張を生み出す。第3曲における軽やかさは無邪気な雰囲気を見事に醸し出し、広く知られる「トロイメライ」では抑えた感情の中にも陰影深く、幻想的であるとともに切ない哀愁がにじみ出る名演となっている。このように「子供の情景」は、一音一音をまさに切々と大事に大事に、そして丁寧に育て上げていくような、音楽に対する真摯な気持ちが感じられる演奏だ。
続くラフマニノフでは、シューマンとはまた違った彼女を聴くことができよう。前奏曲においては多彩な顔を見せ、弱音から伽藍(がらん)のような大きな世界まで、振幅の大きい音楽を聴かせる。「パガニーニの主題による狂詩曲」は、その曲想もあってきらびやかさと華やかさ、そして何よりもあふれるロマンが感じられる演奏。ライブならではの高揚感もプラスだ。「いつでも研究心を忘れずに長く演奏活動を繰り広げたいと願う」と話す彼女。作品に真剣に向き合う彼女の演奏が人々の心に深く刻まれていく。